健康診断トピックス
第12回テーマ
肺ドックについて
(肺がん検診として胸部CTを受けることによる利益・不利益)
日本人のがん死亡者数の1位は肺がんです。既に人間ドックなどの任意型検診ではCTによる肺がん検診が広く行われており、当クリニックでも年間多くの方に肺ドックを受診していただいておりますが、そのほとんどは喫煙者/軽喫煙者(喫煙指数600以下)です。
※喫煙指数=1日に吸うタバコの本数 × 喫煙している年数
肺がん検診の目的は、肺がんを治療可能なうちに早期発見することであり、検診を受けた集団の肺がんによる死亡率を減少させることです。現在、日本の対策型検診(市町村の住民検診など)で行われている肺がん検診は、40歳以上を対象に胸部X線検査(喀痰細胞診については原則として50歳以上の重喫煙者(喫煙指数600以上)のみ)を年1回行っておりますが、胸部X線検査は日本で1990年代に行われた4件の症例対照研究において、肺がん死亡率減少効果が認められ、有効性が確認されています。
一方、胸部CT検査は、胸部X線検査に比較して小さな肺病変の検出率が高いことが知られていますが、放射線被曝などの観点から検診手技としては問題があると考えられていました。その後、被爆量を軽減した「低線量」CT検査という手法が開発されたことで、任意型検診として普及してきました。そして、重喫煙者を対象とした大規模な臨床研究の結果が2011年に米国(National Lung Screening Trial;NEST)から、2020年にオランダ・ベルギー(Dutch-Belgian lung cancer screening trial;NELSON)から報告され、低線量CTの有効性が証明されました。
しかし、非喫煙者/軽喫煙者に対する低線量CTの有効性はまだ報告されていません。2015年より日本で非喫煙者/軽喫煙者を対象とした低線量CTによる肺がん検診の実用化を目指した無作為化比較試験(JECS study)が行われている段階であり、結果はこれからです。
その他にも、CTを用いても肺がん検診は万能ではなく、必ずがんを見つけられるわけではなく(偽陰性)、がんではないのにがん検診の結果が陽性となる場合もある(偽陽性)点や、ごくわずかではありますが放射線被曝があり、偽陽性の場合は結果的には不要な精密検査を受ける可能性がある点などの不利益もあります。以上をご理解、同意の上で肺ドックを受診していただきたいと思っております。ちなみに当クリニックで行っている肺ドックの胸部CTは、低線量CTではありませんが、通常診療で行う胸部CTよりは線量を減らし、放射線被曝の低減に努めております。JECS studyの結果が出ていない現段階においては、非喫煙者/軽喫煙者の肺ドック受診は個人の価値観、判断に委ねられるものだと考えております。
(文責:医師 貞岡亜加里)
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